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大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)129号 判決

原告 笠谷哲子

被告 西宮税務署長

主文

被告が、昭和三九年二月五日付で、原告の昭和三六年度分の所得の申告に関してなした無申告加算税額の決定は、これを取消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

事実

第一、申立

(一)  原告の求める裁判

一、被告が、昭和三九年二月五日付で、原告の昭和三六年度分の所得税につき、その課税所得金額を金一八七、四〇〇円、所得税額を金二〇、四〇〇円としてなした決定および無申告加算税額の決定はいずれもこれを取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(二)  被告の求める裁判

原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、主張

(一)  原告の請求原因

一、被告は、昭和三九年二月五日付をもつて、原告の昭和三六年度分の所得税につき、その課税所得金額を金四二〇、五〇〇円、所得税額を金五六、一〇〇円とする決定ならびに無申告加算税額金一四、〇〇〇円の決定をなし、翌六日原告に対してその旨を通知した。

二、そこで原告より被告に対し、同年三月五日右各決定について異議の申立てをしたところ、同年四月一五日、右所得金額を金三六二、八〇〇円、税額を金四六、五〇〇円、無申告加算税額を金一一、五〇〇円とする異議決定があつたので、同年五月一六日大阪国税局長に対し審査請求をしたが、同四〇年四月二七日、右異議決定を一部取消し、課税所得金額を金一八七、四〇〇円、税額を金二〇、四〇〇円、無申告加算税額を金五、〇〇〇円とする旨の裁決がなされた。

三、しかし、原告の昭和三六年度分の課税所得はなんら存在しないから、被告のなした右各決定はいずれも違法である。

よつて、その取消しを求めるため、本訴に及んだものである。

(二)  被告の答弁

一、原告主張の請求原因第一、二項の事実はいずれも認める。

二、しかしながら、原告の昭和三六年度分の課税所得金額は金一八七、四〇〇円であるから、被告のなした本件所得税の決定はなんら違法ではない。その詳細は以下のとおりである。

すなわち、原告は、昭和三六年五月二九日、その所有にかかる左記土地建物を訴外上田喜一に譲渡したものであつて、これにもとづく課税所得金額が、左のとおり金一八七、〇〇〇円となるのである。

(イ) 西宮市鳴尾町二丁目八八番地の二

一、宅地三〇坪五二

(ロ) 右地上

一、木造トタン葺二階建居宅

延建坪二一坪

(一)  収入金額(譲渡代金)

金一、五七六、〇〇〇円

(二)  取得価格

宅地 七三、二四〇円(旧所得税法一〇条の五、三項、二号の「当該資産の昭和二八年一月一日における価格として命令で定めるところにより計算した金額」)

建物 建築費                  四一八、二〇九円

減価償却費累積               二五、九七〇円

残存価格                 三九二、二三九円

(三)  譲渡経費                 五五、六八二円

(四)  譲渡差益((一)―(二)―(三)) 一、〇五四、八三九円

(五)  譲渡所得                二七七、四一九円

{1,054,839-500,000(特別控除額)}×1/2=277,419

(六)  課税総所得金額             一八七、四〇〇円

277,419-90,000(基礎控除額)=187,400(100円未満切捨)

(三)、答弁に対する原告の主張

一、答弁第二項の(一)ないし(三)の各点は認める。

二、しかしながら原告は、本件建物を建築した際、その建築費四一八、二〇九円のうち、金三〇万円を、昭和三三年七月初旬頃母笠谷きねゑから借り受け、その利息(月四分の約)の支払いとして、昭和三三年末頃原告所有の東京海上火災株式会社株式五〇〇株および藤永田造船株式会社株式二〇〇株を譲渡した(ただし、右株券の記号番号などは不明であり、また、その名義書換なども行われていない。)。さらにその後も、昭和三四年分の利息として金一四万円を同三五年初頃に、また同三五年分の利息として金一四万円を同三六年初頃にそれぞれ母きぬゑに支払つた。

したがつて、右利息の金額を本件建物の取得価額に加算すべきである。(固定資産建築のために借り入れた資金の利子が当該資産の取得価額に算入さるべきことは、国税庁の通達((昭35直所1―11直資16(89)))も認めるところである。)なお、月四分の利息(無担保)というのは、当時の一般常識からすればむしろ低利の部類に属するものであるから、その支払いを受けても著しく低い価額の対価で利益を受けた場合に当らず、したがつて、相続税法九条の適用は問題にならない。

(四)、被告の反論

一、原告が訴外笠谷きぬゑから金三〇万円を借り受けた事実ならびに原告がこれを本件譲渡資産の取得に充てた事実はない。

二、かりに原告主張のような金員借入れおよび利息支払いの事実があつたとしても、右負債の利息は、本件資産の取得価額および譲渡経費にならない。

また、親子など特殊な関係にある者の間においてなされた月四分というがごとき通常の利率を著しく上廻る金銭の授受は、相続税法九条により贈与とみなさるべき性質のものである。

(五)、無申告加算税額の決定についての被告の主張

一、本件無申告加算税額の決定もなんら違法ではない。

すなわち、原告は前記のとおり、昭和三六年五月二九日自己所有の土地建物を訴外上田喜一に譲渡したのにかかわらず、法定期限である昭和三七年三月一五日までに確定申告書を提出しなかつたものであるから、被告は、旧所得税法四四条四項にもとづいて前記のとおり決定するとともに、同法五六条三項により、左の計算により無申告加算税額を決定したものである。

(イ) 計算の基礎となる所得額二〇、四〇〇円

(ロ) 割合百分の二五(確定申告提出期限≪昭和三七年三月一五日≫から本決定通知の日≪昭和三九年二月五日≫までの期間が三ケ月を超えるので)

(ハ) 無申告加算税額五、〇〇〇円

(六)、無申告加算税額の決定についての原告の主張

一、原告が昭和三六年度分の所得につき、確定申告書を提出しなかつたことは認める。しかしながら、原告が右確定申告書を提出しなかつたことについては、次のごとき正当な理由があるから、右確定申告書の不提出を理由とする本件無申告加算税額の決定は違法である。

すなわち、原告は、昭和三七年二月下旬頃被告の呼出に応じて西宮税務署に出頭したが、当時、原告は居住用買換資産を取得する予定であつたので、担当係員に対し、居住用財産の買換の特例の適用を受けたい旨を申出たところ、同係員はこれを諒承して、居住用財産取得価額の見積額等を記載すべき租税特別措置法施行規則一七条一項所定の申請書用紙を原告に交付した。そこで原告は、その場でこれに所定の事項を記載して(右係員が代行して記載)被告に提出したところ、被告は、同年三月五日付をもつて右見積額を承認する旨の承認書(甲一号証)を原告宛に送付してきたのである。ところで、右の承認書は、本来、確定申告書とともに、これに添付して提出すべき書類であるから、被告もしくは同税務署係員としては、右申請書用紙とともに確定申告書用紙をも原告に交付もしくは送付し、所定の記載をなして期限内に提出するよう指示し説明するのが当然であつたといわなければならない。しかるに同係員は、右申請書用紙のみを交付し、原告に代わつてその記載をなしたものであつて、このため、税の申告手続に通じない素人の原告としては、税務署係員が指示し、かつ、代行してくれた同申請書の提出のみが必要な手続であると考え、これによつて、なすべき手続は一切完了したものと信じて疑わなかつたのである。

のみならず、被告は、昭和三八年九月二七日頃に、原告に宛てて、買換の特例を適用すべき場合に発送するところの、買換により取得した財産の利用状況等について回答を求める旨の照会文書(甲二号証)を送付してきているのであり、確定申告書の提出がなくても買換の特例の適用が受けられるものとして事務処理していたことがうかがわれるのである。さらに、本件の申告期限である昭和三七年三月一五日を経過した後、約二年間も、被告はなんらの決定をなさず、昭和三九年二月五日にいたつてようやく本件決定をなしているのであつて、この点からも、右の事実が裏付けられるのである。

二、なお、被告みずからが確定申告書の提出を不要と考えて事務処理していたことは前記のとおりであるが、その後の事情の変更にもとづく修正申告書についても、原告がこれを提出しなかつたことを理由に無申告加算税を課することはできないといわなければならない。詳言すれば、以下のとおりである。

(一)、原告は、昭和三六年五月二九日自己所有の土地建物を訴外上田喜一に譲渡した後、翌三七年五月二三日に、自己の居住の用に供する財産として訴外鳥越安雄所有の建物を買い受けた。ところが、右建物は昭和三八年四月一〇日に倒壊して使用が不能となつたため、同年六月五日、鳥越との間の右売買契約を解除した。

(二)、かくて原告は、自己所有の居住用財産を譲渡した日から一年以内に取得した前記居住用財産を、その取得の日から一年以内に居住の用に供しないこととなつたものであるから、本来ならば、租税特別措置法三六条三項(二号)により、右財産を居住の用に供しないこととなつた日から四月以内に修正申告書を提出しなければならなかつたものであるが、国税通則法附則九条一項によると、同法施行後(昭和三七年四月一日以後)に法定申告期限の到来する国税については、同法第六章第二節(加算税)を適用すると規定され、かつ、右修正申告書の法定申告期限は前記買換財産取得の日から一年を経過した日の四ケ月後である昭和三八年九月二三日であるから、右修正申告書の不提出にかかる無申告加算税の賦課については、国税通則法が適用されることとなるのである。しかるに、租税特別措置法三六条五項によると、同条三項の規定による修正申告書については同法三三条の三第三項が準用され、同項三号によると、右修正申告書については国税通則法六六条の規定を適用しないとされているのである。そうだとすると、原告が前記提出期限内に修正申告書を提出しなかつたからといつて、それを理由に無申告加算税を課することはできないといわなければならない。

なお、租税特別措置法三六条五項は、昭和三七年法律六七号により新設されたものであるが、同法附則(昭和三七年法律六七号)一五条によると、改正後の租税特別措置法三六条の規定は、昭和三七年四月一日以後に同条二項、三項に規定する事由が生じた場合について適用されるものであり、かつ、本件において右事由が生じたのは、同日以降のことであるから、前記三六条五項は本件についても適用されるものである。

(七)、被告の反論

一、原告が確定申告書を提出しなかつたことについては、なんら正当な理由はない。原告が正当な理由にあたる事情として主張しているような事実は存在しない。

二、なお、原告の指摘する租税特別措置法三六条五項は、同条二項または三項の規定による修正申告書について、同法三三条の三第三項を準用する旨を規定したものにすぎない。すなわち、自己所有の居住用財産を譲渡し、その譲渡の日の属する日の翌年で譲渡の日から一年以内に居住用買換資産を取得し、かつ、当該取得の日から一年以内に居住の用に供する見込みであつた者は、租税特別措置法三五条二項により所轄税務署長の承認を受けた上、同条三項により、居住用資産買換の特例の適用を受けようとする旨ならびに所定の事項を記載した当該譲渡の日の属する年分の確定申告書を提出しなければならないのであつて、同法三六条三項(二号)の趣旨とするところは、そのような確定申告書を期限内に提出した場合に、買換資産を取得した日から一年以内に居住の用に供しないときは、取得の日または右の事由の生じた日から四月以内に修正申告書を提出すべきものとする点にあり、かつ、原告の指摘する同法三六条五項の規定は、このような修正申告書を所定の期限内に提出しなかつたことを理由に無申告加算税を課することができない旨を規定したものにすぎないのである。

ところが、原告は、このような修正申告書のみならず、そもそも、昭和三七年三月一五日までに提出すべきであつた確定申告書そのものを提出していないのであり、しかも、本件無申告加算税の賦課は、前記のとおり、右確定申告書を提出しなかつたことを理由になされたものであるから、租税特別措置法三六条五項は本件とはなんらかかわりのない規定である。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、原告主張の請求原因第一、二項の事実および被告主張の答弁第二項の(一)ないし(三)の事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

二、しかして原告は、訴外上田喜一に譲渡した右建物(以下、本件建物という)の建築費四一万円余うち金三〇万円を母笠谷きぬゑから借り受けるとともに、同女に対し、その利息(月四分の割合)として合計金二八万円を支払い、株式七〇〇株を譲渡したから、これを本件建物の取得価額に加算すべきであると主張し、被告はこれを争うので、以下この点について検討するに、原告の主張する右建築費借入れおよび利息支払いの事実については、証人笠谷きぬゑの証言および原告本人尋問の結果中にその旨の供述が存在するのみで、他にこれを立証するにたりる証拠は全く存在しないから、右事実の存否は、もつぱらこれら供述の信憑性如何にかかつているものといわなければならない。ところが、右の供述は、原告本人とその母である証人笠谷きぬゑがその旨の陳述を繰り返しているというだけのものであつて、その裏付けとなるような客観的事実ないし証拠は全く見当らないのである。のみならず、右証言および本人尋問の結果によると、原告と母笠谷きぬゑとは、かねてより、本件建物敷地と同一の敷地内にあつた建物に生計を共にしながら同居していたところ、隣接地に高層の建物が建築せられて原告方建物を見下すようになつたことから、やむなく昭和三三年頃本件建物を建築することになつたものであるが、本件建物の建築が完成した後も、原告および右きぬゑはこれに移り住んで、前記上田喜一に譲渡するまで、従前どおり生計を共にしながら同居生活を続けていたことが認められるのであつて、このような事実からすれば、原告が本件建物の建築費の一部を母きぬゑに出捐してもらつたとの点はこれを否定しえないとしても、右のような関係にあつた母子の間で月四分というがごとき高率の利息の支払いがなされたものとはとうてい考えることができないのである。そうだとすると、前記証言および本人尋問の結果中、右のごとき利息の支払いがなされた旨の供述部分は十分の信憑性をもつものとは認められず、したがつて、右利息支払いの事実を認めるにたりる証拠は存在しないというべきであるばかりでなく、右認定のような原告と母きぬゑとの関係からすれば、むしろかような利息の支払いがなされた事実はないと認定するのが相当であるといわなければならない。

しからば、本件建物の譲渡による原告の昭和三六年度分の課税所得金額は被告主張のとおり金一八七、四〇〇円であると認められるから、これを右同額としてなした被告の本件所得税の決定はなんら違法ではないというべきである。

三、しかるところ原告が、本件譲渡所得につき確定申告書を被告に提出しなかつたことは当事者間に争いのないところ、原告は、右確定申告書を提出しなかつたことについては正当な理由があるから、被告のなした本件無申告加算税額の決定は違法であると主張するので、次にこの点について判断することとする。

昭和三七年当時施行の旧所得税法五六条三項によると、無申告加算税額の決定については、納税義務者が法定期限内に確定申告書を提出せず、かつ、そのことについて正当な理由がないことを要するものとされているところ、右法条にいわゆる正当な理由とは、無申告加算税が租税債権確定のために納税義務者に課せられた税法上の義務の不履行に対する一種の行政上の制裁であるところからすれば、かような制裁を課することを不当もしくは酷ならしめるような事情を指すものと解するのが相当である。そこで、本件においてかような事情が認められるかどうかについて考えるに、成立に争いのない甲第一、第二号証、原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実を認めることができる。

(イ)、原告は、昭和三七年二月下旬頃、被告の呼出に応じて西宮税務署に出頭するとともに、担当係員の求めにより本件土地建物の譲渡に関する契約書等を呈示して事情を説明したが、その際、居住用買換資産を取得する予定であつたので、その旨右係員に申し出て、居住用財産の買換の特例の適用を受けたい旨の意向を伝えた。

(ロ)、これに対し、担当係員は、右買換の特例の適用を受けるためには、買換資産の取得価額の見積額その他の明細を記載した申請書(租税特別措置法施行規則一七条一項)を提出して所轄税務署長である被告の承認を求めるべきである旨の返答をしながら、右申請書を取り出し、その申請人欄に原告みずから署名押印するよう指示したうえ、その他の所定の事項を原告に代つて記載し、これによつて右承認の申請事務を代行した。

(ハ)、その後、同年三月五日付をもつて右見積額を承認する旨の承認書(甲第一号証)が被告より原告宛に送付され、さらに、同三八年九月二七日頃には、買換により取得した財産の利用状況等について回答を求める旨の照会文書(甲第二号証)が送付されてきたが、当時、譲渡所得に関する申告手続、居住用資産の買換の特例の適用を受けるための手続などに通じていなかつた原告としては、確定申告書の提出期間中に税務署より呼出しを受け、担当係員に居住用買換資産取得の予定を申し述べて買換の特例の適用を受けたい旨の意向を伝え、かつ、同係員から求められるまま前記申請書に署名押印し、その申請事務を代行してもらつたからには、これによつて必要な手続はすべて完了したに相違ないものと思いこみ、それ以上なんらの手続もとらないまま放置するにいたつた。ところで、租税特別措置法三五条二項三項によると、自己所有の居住用財産を譲渡し、その譲渡の日の属する日の翌年で譲渡の日から一年以内に居住用買換資産を取得し、かつ、当該取得の日から一年以内に居住の用に供する見込みであつた者は、所轄税務署長の承認を受けた上、居住用資産買換の特例の適用を受けようとする旨その他所定の事項を記載した当該譲渡の日の属する年分の確定申告書を提出しなければならないとされており、かつ、居住用買換財産の取得価額の見積額等を記載した前記申請書は、右税務署長の承認を求めるために提出されるものであり、また、前記承認書(甲第一号証)はこれを承認する旨を記載した書面であつて右確定申告書とともに提出すべきものにほかならないのである。そうだとすると、本件土地建物が原告より訴外上田喜一に譲渡された事実を察知して原告を西宮税務署に呼出した被告もしくは同税務署の担当係員が、原告が居住用財産の買換の特例の適用を受けたい旨の意向を示したのに対して、買換財産の取得価額の見積額等を記載すべき前記申請書の提出事務のみを代行したにとどまり、これとともに確定申告書用紙を原告に送付もしくは送付し、所定の記載をなして右承認書とともにこれを期限内に提出するよう指導し説明することはもちろん、確定申告書の提出についてなんら言及するところがなかつたのは、担当係員として行き届いた態度であつたとはとうてい認めることができず、また、原告が前記(ハ)において認定したように思い込んで、期限内に確定申告書を提出しなかつたのは誠に無理からぬところであるといわざるをえないのであつて、したがつて、右確定申告書の提出がなかつたことを理由に、これが税法上の義務の不履行にあたるものとして行政上の制裁を課することは原告にとつてきわめて酷であるといわなければならない。

このように考えてくると、原告が本件譲渡所得に関して確定申告書を提出しなかつたことについては正当な理由があつたというべきであつて、これが提出されなかつたことを理由になされた被告の本件無申告加算税額の決定は、その点において違法であるといわなければならない。

四、以上のとおりであるとすると、原告の本訴請求中、右無申告加算税額の決定の取消を求める部分は正当であるからこれを認容することとし、その余の部分は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎甚八 藤原弘道 光辻敦馬)

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